
ざっくり要約3ポイント
マンチェスター大学皮膚科学センターは、骨粗しょう症の治療薬であるWAY-316606に発毛を促す副次効果が期待できるとする研究結果が報告されました。
マンチェスター大学の研究について
男性型脱毛症であるAGAの治療には、効果の認められているミノキシジルとフィナステリドが使用されています。しかし、ミノキシジもフィナステリドも中程度の副作用があり、尚且つ発毛効果には個人差があり、現時点では確実なものではない治療薬とされています。
そこで、副作用の少ない新しい脱毛症治療薬を開発したいと考えたのがスタートで、注目したのが免疫抑制剤であるシクロスポリンA(CsA)です。
シクロスポリンA(CsA)とは
シクロスポリンA(CsA)とは、白色からわずかに薄い褐色をしている、結晶性粉末~粉末、または塊状の成分です。エタノールやアセトンに極めて溶けやすく、水にほとんど溶けないのが特徴です。
元々、移植手術に伴う拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療薬として、1980年代から使用されています。
シクロスポリンA(CsA)は、けいれんや下痢などの深刻な副作用を伴うことがある一方で、一部の患者には予想外の育毛効果が確認されていました。
シクロスポリンA(CsA)が育毛・発毛に効果のあるメカニズム
毛包に対して、SFRP1というタンパク質は成長を抑制する効果を発揮します。
シクロスポリンA(CsA)による処理を施された患者の頭髪の毛包を分離し、全遺伝子発現解析を行った結果、シクロスポリンA(CsA)にはそのSFRP1の発現を弱めることが明らかになりました。
This revealed a significant decrease in SFRP1 protein expression within the DP (Fig 1G and 1H) and in the surrounding HF epithelium (matrix and pre-cortex) (Fig 1G, 1I and 1J) after 48 hours of CsA treatment. Therefore, CsA suppresses SFRP1 protein levels within the human HF bulb.
CsA処置の48時間後のDP(図1Gおよび1H)および周囲のHF上皮(マトリックスおよび前皮質)(図1G、1Iおよび1J)におけるSFRP1タンパク質発現の有意な減少を明らかにした。したがって、シクロスポリンA(CsA)はヒトHF球内のSFRP1タンパク質レベルを抑制する。
つまり、毛包の成長抑制するSFRP1の力を弱めることで、発毛を抑制するブレーキが解除され、結果シクロスポリンA(CsA)の副作用によって発毛がもたらされるというメカニズムです。
シクロスポリンA(CsA)にはSFRP1を抑制する効果があると判明しました。
しかし、免疫抑制という効果があるシクロスポリンA(CsA)そのものを脱毛症治療薬に使うことは難しいといえます。
そこで、研究チームはさらに研究を進め、もともと骨粗しょう症の治療薬として開発されたWAY-316606という化合物にもシクロスポリンA(CsA)と同様に、SFRP1タンパク質の発現抑制効果があることを発見しました。
human HFs were treated ex vivo with WAY-316606 for 6 days, and hair shaft production was measured. WAY-316606 significantly increased hair shaft production (elongation) as early as 2 days following treatment (Fig 3A), even faster than CsA-induced hair shaft elongation ex vivo, which occurs several days later
ヒトHFをex vivoでWAY-316606で6日間処理し、毛幹の生成を測定した。 WAY-316606は、数日後に起こるシクロスポリンA(CsA)誘導性毛幹伸長よりもさらに速く、処置後2日目(図3A)の早期に毛幹の生成(伸長)を有意に増加させた
つまり、骨粗しょう症の治療薬として開発されたWAY-316606という化合物は、毛幹の成長に有効な成分であると言えます。
Through microarray analysis, we found that the level of the secreted Wnt inhibitor, SFRP1, was significantly reduced by Cyclosporine A. This inspired us to design a new pharmacological approach that uses WAY-316606, a reportedly well-tolerated and specific antagonist of SFRP1, to prolong the growth phase of the hair cycle
マイクロアレイ分析により、分泌されたWnt阻害剤、SFRP1のレベルがシクロスポリンA(CsA)によって有意に減少することがわかった。これは、SFRP1の報告されている耐容性があり特異的なアンタゴニストであるWAY-316606を使用する新しい薬理学的アプローチを設計するよう促した。 ヘアサイクルの成長段階を延長することができる。
さらに、WAY-316606という化合物は、ヘアサイクルの成長段階を延長させる効果があるので、抜け毛を抑制し太く育った毛髪を維持することができると考えられます。
最後に
研究結果から、骨粗しょう症の治療薬として開発されたWAY-316606は、脱毛症患者の頭皮に外用することで、副作用を抑えながら発毛効果が期待できる成分と考えられます。
現段階で成分の効果について明らかになりましたが、次の段階の研究では臨床試験を通じて、薬品を人に局所使用した場合の安全性と有効性を検証する必要があると言えます。
米国の皮膚科医はドリス・デイ氏はこのWAY-316606は新薬の開発に結び付く可能性があると指摘しており、「薄毛の予防と毛髪の再生を助ける恒久的な手段の発見に1歩近付いた」と評価しています。
今後副作用の少なく、より安全な発毛薬の誕生に期待が持てそうです。