
「匂いを嗅ぐのは鼻に決まってる!」
そんな常識が覆される研究が先日報告されました。
「Science Alert」(9月19日付)によると、 “頭皮”も匂いを嗅いでおり、それが発毛に大きな影響を与えていることが分かったというのです。
人が匂いを感じるメカニズム
鼻から匂い物質が入ると、その物質は鼻腔最上部の嗅上皮と呼ばれる特別な粘膜に溶け込み感知されます。
人には400種類ものニオイを感じる嗅覚受容体があり、ニオイ物質が鼻の中に入ると、嗅上皮の嗅覚細胞が電気信号を発し、電気信号が嗅神経、嗅球、脳(大脳辺縁系)へと伝達することで、匂いとして感知されます。
研究結果について
嗅覚受容体は全身で異なる細胞型で発現していて、生理学的な細胞機能を調整しています。
イギリス・マンチェスター大学で行われた今回の研究では、毛根周辺の細胞には嗅覚受容体OR2AT4があり、これが人工合成されたサンダルウッド(白檀)の香りによって刺激されると毛髪の成長を促進される効果があると報告しています。
サンダルウッドとは
サンダルウッドは日本では「白檀(ビャクダン)」と呼ばれ、お香や線香、数珠や扇子などの宗教儀式や瞑想に使われてきた植物です。
日本人には馴染み深い香りで、香りには不安を和らげ緊張を解きほぐすリラックス効果や、集中力を高めるなど精神的にアプローチする効果や、殺菌作用によって感染症のリスクを軽減させる効果などがあります。
研究データについて
髪の毛1本1本の根元は毛包という細胞の集まりによって囲まれています。
この毛包には嗅覚受容体OR2AT4という、ニオイ分子の受容体があります。
髪の成長は3段階のヘアサイクルを通じて起きています。
まずは髪の毛が太く大きく成長する「成長期」です。
この成長期では、毛包の奥にある毛母細胞が細胞分裂を繰り返すことによって髪の毛が成長していきます。
成長期から「退行期」に移行していくと徐々に細胞分裂の活動をしなくなります。
最後に「休止期」に入ると、完全に細胞分裂を止め髪の毛が生えている状態になります。
その後髪の毛が抜け落ち、また成長期に入り→退行期に入り→休止期に入る…を繰り返していきます。
研究を行ったマンチェスター大学の皮膚病学者ラルフ・ポース氏によると、嗅覚受容体OR2AT4に人工合成されたサンタロールを嗅がせる、つまりさらすとIGF-1という成長因子が仲介することでヘアサイクルの成長期が延長されるとしています。
IGF-1という成長因子は別名“インスリン様成長因子”と呼ばれています。
Olfactory receptor OR2AT4 regulates human hair growth
この表からサンダルウッドにはIGF-1成長因子の分泌を促す効果があると考えられます。
Olfactory receptor OR2AT4 regulates human hair growth
サンダルウッドによってヘアサイクルにおいて退行期の状態にあった毛包が成長期への移行が促されたことが分かります。
このIGF-1が、毛母細胞や毛乳頭、毛包幹細胞に刺激を与え、活性化させることで髪の毛を大きくする成長期が延長されて育毛に効果を発揮させるというメカニズムです。
また、サンタロールによってIGF-1が多く生成されると、毛包の細胞が死んでしまうアポトーシスという現象を抑制させることができると言われています。
ただし、ポイントは天然のサンダルウッドの香りでは嗅覚受容体OR2AT4と結びつかず、アロマで楽しむような人工のサンダルウッドの香りのみ、嗅覚受容体OR2AT4に刺激を与えIGF-1の成長を促すことが分かっています。
まとめ
サンタロールが頭皮の嗅覚受容体OR2AT4と結びつくことで、IGF-1と呼ばれるインスリン様成長因子が分泌されます。すると、髪の毛を生成する毛母細胞の成長が促進され、また細胞自体の死滅を防ぐことで育毛効果を発揮するということが分かりました。
興味深いことに、本物の白檀はOR2AT4と結びつかず、人工合成されたサンタロールでないと効果がないという結果になりました。
逆にPheniratと呼ばれる甘い香りがする化学物質と頭皮の嗅覚受容体が結びつくと、毛髪の成長が抑制されることも分かりました。
これによって、OR2AT4の受容体としての働きは育毛おいて大きな影響を与えているか分かりました。
研究者らは、小さな臨床試験において20人の女性に脱毛の減少が見られたことも報告しています。今後さらに大規模な臨床試験を実施予定であり、その結果を来年の1月に報告したいと語っているそうです。